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最高裁判所第二小法廷 昭和54年(行ツ)150号 判決

上告人 篠原薫

被上告人 特許庁長官

上記当事者間の東京高等裁判所昭和54年(行ケ)第62号審決取消請求事件について、同裁判所が昭和54年7月31日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

審決をするときの法定期間として特許法156条3項に規定されている20日の期間を経過した後に審決がなされたとしても、これをもつて上記審決を取り消すべき理由とすることはできない。そして、上告人の審決取り消請求を棄却すべきものとした原審の判断は、正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟7条、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 栗本一夫 裁判官 木下忠良 裁判官 塚本重頼 裁判官 鹽野宜慶 裁判官 宮崎梧一)

(昭和54年(行ツ)第150号 上告人 篠原薫)

上告人の上告理由

1 7月10日東京高裁法庭に於いて被告答弁書を提出していない、裁判長は答弁書は原告に直接送つたそうだ、と云われたが、私が鹿児島出発までそれを受理していない事を述べると、「要するに訴状の前の方は認めるが、後の方は争ふと云ふ事だと答弁書の内容を説明され、被告はあの様な事は二度としないと云つて居る、篠原さんのは大概宜しいが、全部宜しいわけではない。これで閉庭する、と云つて判決日を申されて閉庭された、然し判決は違つたものに成つていた。判決文の中には確定審決になつていないのに再審請求をしたのは違法としているが、裁判では確定審決の一語も、同様の意味の言葉も無かつた、従つて被告は此の事由を主張する事を止めたものであり、取り下げたものである、民事訴訟法第186条は「裁判所は当事者の申立てざる事項に付判決を得ず」と成つて居り判決はこれに違反するものである。

2 訴状でも述べた通り被告は特許審査審判の途中盛んに違法手続を繰返へした。特許法では第156条第3項により「審決は審理の終結の通知を発したる日より20日以内に之を為すべし」と成つておるが、訴状に述べた通り、審判昭和50年(ネ)第6024号審理終結通知は1月30日付53年2月13日8月23日付の審決書が9月14日に送達された。通知より送達迄7ヵ月と1日かゝつておる。又再審第5号に於いて昭和54年2月12日審理終結通知を受け、3月30日再審請求書却下の審決書を受けた、その間46日である、明らかに上記法令違反である、然るに判決では「同条項はいわゆる訓示規定であるから、上記期間経過後になされた事によつて、その審決が違法なものととなるわけではない。」と云つて居るのは誤りである。

特許出願審査に於いては、審査官(審判官)と出願人の外に関係者は居ない。審査官(審判長)は自らの判断と資料で、これ以上査定を拒否すべきか否かは決定出来るのであり、期間的にも制約されていない。故に満足の行く処で審決をなす事が出来るのである、不確定要素は無い、故に自由に審理終結をなし、通知した後に更に審決を延引しなければならぬ理由は無い、有るとすれば出願人よりの不利審決に対する異議の意見のみである、出願人より申出の無い限り審決を引延ばす理由は無い。勿論審判官と誰も人間であるから、審理終結通知後不安の出て来る事絶無とは云えないであろう、然し此の不安が何時もの事であつては、審理の雑駁さ以外の何物でもない。一ケの出願に専心すれば20日以内とされた此の期間を引き延ばす理由は無い。況んやその期間が長期に成る等と云ふ事は論外である。

此の様な不法を犯す事を制限する意味でも「之を20日以内になすへし」と強行規定文句であるとすべきである。判決の通りとするなら此の規定が無いと同じである。仍つて此の判決は法令に違反するのである。

3 特許法では、第50条で「審査官は出願を拒絶すべきものと認めたるときは出願人に対し拒絶の理由を示し期間を指定して之に意見書提出の機会を与ふ可し」とあるが、特許庁は審査の段階で拒否理由として特許第99852号を示し、電気プロペラーを用いる事は一般に知られた事と云つて来た、然し此の資料には電気プロペラーは何処にも無のである。此れに意見書を出した処、拒絶査定謄本が送られて来た、そして同じく電気プロペラーを用いるは一般に知られた事であるとの理由で拒絶査定された、そして昭和39年10470号出願公告参照とあつた。電気プロペラーを用いた特許は昭和39年以前にも幾つもあるである、失々使用方法等に新機軸があるからであろう本件もそのその通りである。第99852号の資料による拒否なら有り得ないし、拒否理由無と同じであり、10470号によるとすれば上記の法文に違反するのである、何れにせよ違法である、後者の場合意見書提出の機会は与へられていないのである、此の違法処分については行政不服審査法上の異議を申出たが此の法律では出来ないと却下された。此の違法手続による処分により、審判請求に入れざるを得なかつた。これが普通の拒絶理由通知(査定謄本でなくて)に依つたら審査の段階の処理で終つたであろう。然し審判に這入つたので、料金は勿論審理にに入るに数年も要したので、色々の損害を受けたのである。特許庁では此の違法手続は審判で審利されたが、新な拒否理由が出てこれに依つたと云ふのである、此の事は違法手続は違法と認めたと云う事であり、審判手続に入つたのは違法の下に入らされたと云ふ事である。元来行政庁の違法処分の取消又は変更については行政事件特例法があつた、然し特許法では、独立の不服申立の方法として「査定又は審決の手続が法令に違反するときは抗告審判官は其の査定又は審決を破棄すべし」の条文が有つた、然し上記特例法が行政不服審査法に移行した後は特許法の此の点は移行したのである。

而して行政不服審査法で査定又は審決を除いておるのは、此等は産業技術面の新規か否かの内容審査である可きものである、からであつて手続上の問題でないとしたものとす可きである、然し意見書提出の手続は起る可能性無しとしたのかも分らぬが、現実に存在するのみならず、正しい査定又は審決に至るには大事な手続であるのみならず、審判官の勝手気儘な査定又は審決に至りて特許権の正確さと機能を高め出願者の利益を守る為の手続の一つとして大事なものである、又これを審判や次の手続による事は先述もした様に不都合を生むのである。

又意見書提出の機会を与ふ可しとの法令がある以上行政庁がそれを犯した時は、それに基づく処分は出願者がそれでも宜しいとしない以上その処分は取り消さる可き法理であろう。

確定審決については前述の如く法廷には出されなかつた被告の主張は此の事丈らしいが、法廷には出されていないので取り下げたと見る可きでこれを有効とした判決は違法である、又昭和44年(行ケ)第79号再審請求事件では、その判決文の2~3頁で「特許庁は昭和43年9月28日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決をし、その謄本は同年10月27日原告に送達され、上記審決は確定した」とあり、又特許法で民訴法準用の条文は其旨該当条が書かれておるが、民訴法第420条の準用は書かれていない。

以上要するに法令違反による判決があるので判決を破棄して審決取消の判決を願うものである。

以上

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